カニとクモ


 庭の睡蓮鉢で飼っているメダカが、ある日 突然、影も形もなくいなくなるという事が続いて、1匹、2匹と減っていってしまったという話を、夫がメダカ飼育に詳しいお知り合いに相談したそうなんです。 


 「多分、鳥だか猫だかに食べられてしまったんじゃないかと思うんですけど。」 

 「そういう事もあるから、網をかぶせておくといいよ。」  

 「クモがメダカを食べているところも見た事があるよ。クモが水の中に入っていくのを見ていたら、クモの祖先はカニだったんじゃないかと思ったよ。」

 


 ...カニとクモ? 確かどこかでも一緒に出てきたような。そう!あの本!  


「ゴンド・アート」というインドの民族画をたまたま見つけて気に入り、部屋に飾っています。


 

 色んな動植物が独特のタッチで描かれていて、とてもかわいい。この本に「陸のはじまり」というインド神話が載っていて、そこにカニとクモが出てきます。   



  「まだ、世界が海に覆われ陸地がなかった頃、偉大な神バラデーヴはハスの葉の上で眠っていた。 

  ある日、目覚めたバラデーヴは、体から泥をだして、白いカラスをつくった。そして、土を見つけてくるようカラスに命じた。 


 3日3晩飛び続け、疲れたカラスは少し休もうと小さな岩にとまった。ところがそれは岩ではなくヘビだった。いきなりとまられたヘビは怒ってカラスに毒を吐きかけると、カラスは黒色に染まった。

 カラスは驚きヘビから逃れ、再び空を飛んでいると、今度はカニに出会った。カラスが土のありかを尋ねると、カニはミミズの王が持っていると答え、連れ立ってミミズの王が住む海の底へ向かった。


 海の底にはミミズの王と王妃が住んでいた。カラスは土を分けてほしいと頼んだが、ミミズの王は「土は私たちの食べもの。あげてしまったら、何を食べろというのか」とその願いを断った。するとカニがミミズの王妃の首を締めつけて、食べていた土を吐きださせた。 (中略)

 やっとの事で土を手に入れたカラスは、その土を3つに分け、くちばしに1つ、足に2つ持って、バラデーヴの元へ帰った。  


 バラデーヴは土をハスに乗せて水に浮かべ、蜘蛛の王に「この土をつなぎあわせて陸をつくりなさい」と命じた。蜘蛛は糸を張って網をつくり、土をとじこめた。土はどんどん広がり、やがて陸ができた。  

 陸が無事にできたのを確かめると、バラデーヴは自分の髪からサージャの木をつくった。今でもサージャの木にはバラデーヴが宿っている。」  



 いちどに何十〜何百何千もの卵を産むクモが地と空の間を行き来する。そして、いちどに何万もの卵を産むカニは地と水の間を行き来する。その様子をよく見ていた昔の人の実感から、世界を結び広げる媒介者、ネットワーカーの象徴として神話に描かれたのでしょう。  神話が生まれたはるか昔の世界にはテレビも本もなかったけれど、そのかわりに自然の生き物の生態系を観たり、星座の移ろいを読むことに今よりずっと没頭し楽しんでいたのでは。案外、今も昔も、人の発想の仕方に大きな違いはないのかもしれません。

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