「動きが脳を変える」


 介護職の現場では、誰もが進んでしたがるような事ではない事も、楽しそうに機嫌良くしている人をよく見ます。

 

 人にはいろいろな適性や、向き不向きがあるし、そういう人ははじめから好きでしているんだろうという風にも、一見、みえます。

 

 でも、自ら経験を重ねるうちに、避けられるものなら避けて通りたいような、身体的にも心理的にも自分にたいへんな負担がかかることも、ふしぎなほど機嫌良くしているのは、必要に迫られて身につけた本人の訓練のたまものである場合がほとんどなのだと理解しました。

 

 自分の前にあらわれた課題に対して、腰が引けたままイヤイヤ向き合うような無防備で消極的な姿勢を取ってしまうと、必要以上のダメージを心身にくらってしまう事を身をもって知っているからです。やりたくないし、やる必要もない事は避けたらいいけど、避けようがない事に対しては、お腹に力を蓄えて正面から積極的に向き合わないと危ないので、意識はポジティブな方に向けておくものなのだ!と腹を決めて前を向き、できるだけ自分の機嫌を良くしておく事は、もはや自分を守るために必要不可欠なスキルです。

 

 仕事であろうがなかろうが、生老病死と無関係でいられる人は、いません。まして、今や日本は前例がない、世界一の少子高齢化の道を突き進んでいる国なので、なおさらです。

 

 ヨガの練習を重ねて、そしてまた介護の仕事を通じて、人の生老病死について学ぶ内に、昔の自分には、次のような誤解があったことに気づきました。年をとると、体が思うように動かなくなるから、体を使わなくても頭だけを使って生きていけるような生活設計をしておかなくてはいけない、というような。

 

 このような考え方は、誤解です。なぜなら、頭と体、知る事と動く事は、それぞれ独立してあるのではなく、永遠の相互補完関係としてあるからです。誤解を解かずに過ごすうちに生じたアンバランスさは、そのまま、他者や次世代の肩の上に重くのしかかります。

 

 「動きが脳を変える」という本の著者、アナット・バニエルは、科学者の父と芸術家の母のもと、イスラエルで育ちました。人間の脳への関心から身体運動の意識化を探求したフェルデンクライス博士に師事し、人びとが痛みや限界を超え、新しい次元のパフォーマンスに到達するための取り組みを、アメリカで展開しています。フェルデンクライス博士は、柔道の黒帯を持つ物理学者でもあります。

 

 この本の内容は、そのままヨガのテキストとしても、日々の練習に大いに生かせるようなもので、自分の動き方、感じ方、考え方に望ましい変化を起こすための具体的な方法について、とてもわかりやすく書かれています。今の私にとって、特に響いたのは、「内なる熱狂は、学ぶことのできるスキルである/小さな変化を増幅させて、大きな変化に」という内容の章です。一部引用します。

  

  

 「宇宙の万物は、秩序のない乱雑な状態へ向かいます。しかし、エネルギーによって、秩序が作られます。地球はつねにエネルギーを消耗しますが、同時に、毎日、太陽から受け取るエネルギーによって、あらゆる生命が育ちます。花は枯れて土に還るとき、エネルギーをもつタネを落とします。宇宙はつねに秩序の崩壊と構築のサイクルをくり返します。人間もそうです。

 

 本書が示すスキルを探求することは、衰えや活力喪失へ向かう自然の力をまえに、秩序へと向かって脳を鍛えるということです。一度このようなスキルを習得すれば、日常の何をするにも、その質を高めることが可能です。子どもやパートナーに話しかけるとき、励ますように話すのか、けなすように話すのか、やりとりが長年つみ重なれば、活力には天と地ほどの差が生まれます。

  

 問題を解決しようとするとき、イライラしながら取り組むと、穏やかに情熱をもって取り組む時よりもエネルギーを消耗します。テニス選手が素晴らしいサーブを決めるときに使うエネルギーは、下手なサーブのときより少ないものです。脳が獲得した秩序の精度の差がそうさせるのです。」

 

 

 イライラしながら取り組むと…エネルギーを消耗…。そうそう。耳が痛い!笑

 人の意識は、受け身が過ぎるといくらでもネガティブで不活性な方向へと引きずられてしまいやすいものなので、どんな小さな明るい兆しも見逃さないように敏感に気づいてはポジティブなエネルギーを増幅させるように動き続ける事で、ようやくニュートラルな精神状態を保ち、いまここ現在に機嫌よくいられるようになります。そしてさらに、一人ひとりが放つエネルギーは、良い方向にも悪い方向にも、伝染し広がっていきます。

 

 私も、尊敬する人生の諸先輩がたを見習って、動きから脳を変え、自分の内から望ましいエネルギーを活性させながら、人と繋がっていきたいです。



HANE YOGA

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