結ぶ力と断ち切る力

 ヨガのポーズに、肩立ちのポーズ(サルヴァンガーサナ)というのがあります。古典的な逆転のポーズで、このポーズをとることで心身に数えきれないほど多くの恩恵が得られることからポーズの女王と言われる事もあります。


 レッスンの最後の方によく行われます。血圧の降下、安静、消化、回復に関わる副交感神経の活性化を助けることで、その後のくつろぎのポーズ(シャバーサナ)でのリラックス感を深める事ができるからです。


 筋肉的には、首と背中をストレッチしながら体幹を引き締めます。首に過度な負荷をかけすぎないように気をつけながら全身で協力して行う事で、無理なくリンパの流れを促進し全身の循環を改善することができるというのが特筆的な効果です。

 

 身体的効果もたくさんあるポーズですが、私がレッスンの中でよくお伝えするのは、逆さまの視点から見ると自分の体がゆがんでいる事に気付きやすくなる、という心理的効果についてです。

 

 そのゆがみは、普段は見慣れすぎていたり深層に位置していたりでなかなか自覚しにくい体のゆがみ(たどっていくとそれは動き方、感じ方、考え方などの認知面での自分の癖や傾向ともつながっている)が、具体的に取り組みやすい形となって目の前にあらわれたものであり、ヨガの恩恵を心身深くまで染み込ませるように、今の自分のゆがみ具合についての理解を深めていくことによって、対症療法的な運動にとどまらない根本的な体質改善、良い変化に繋げることができると思っています。

 

 

 自分のゆがみが目の前にあらわれた時、それをどう受けとめて、どう対処するかというところに、私たち各々の運命の分かれ道があります。

 


 自分のゆがみに気づく事ができたら、そのゆがみを客観的でニュートラルにとらえやすい新鮮な視点から見て、無理のない範囲でできるだけの対処をしておきます。安定して快適な状態に戻す努力をします。

 

 ヨガでは、部分に全体が宿るとか、体は小宇宙であるとかいいます。であるならば、自分にあらわれたゆがみや症状は、外の世界のアンバランスさを自分が体で引き受けて何らかの症状としてひとつに結び、形作る事に成功したものであるという見方もできます。とりとめなく混じり合ってうごめく流れは取り除く事ができないけれど、具体的な形を伴ったひとまとまりに落としこめたものなら、それを断ち切り手放せる可能性が大いにある。自分の体がゆがんだり何らかの症状をあらわしているのを、自分のせいだと責めてはいけない。むしろ、世界のアンバランスさを受け入れ、消化、回復に努めては世界にエネルギー還元し続けている自分を褒めてあげたいところです。

 

 ヨガは、役に立たなくなった思考や感情のパターンを断ち切り、絶え間ない変化に対して偏った判断をせずにありのままに観察できるようになり、ストレスのせいで身体を壊すという悪循環から抜け出せるようになる、強力なツールです。

 努力の方向性を重力のラインに素直に沿わせるようにして体を伸ばしていくと、全体的なバランスが調和し快適な感覚を味わえます。自然の木々が伸びている方向を参考にすると少しずれているようなので、腰から足先にかけてのラインをもう少し後ろに持っていくとニュートラルなポジションに近づけそうです。慣れない内は、腕や手の方に重心を移して、股関節を曲げて顔の方に脚を下ろし圧力を緩めておけば、無理なく快適に練習を続ける事ができます。

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