「両手にトカレフ」
「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」のノンフィクション作家、ブレイディみかこさん初の小説「両手にトカレフ」を読みました。
主人公のミアは14歳の女子中学生。ミアは図書館でカネコフミコの自伝に出会い、自分と同じように過酷な境遇を生きるフミコを誰よりも近くに感じるようになります。
大正期の思想家であった金子文子の事は、よく知らなかったのですが、「金子文子と朴烈」という映画を見て、少し知る事ができました。
フミコは人生のあらゆる時期にあらゆる困難にぶつかります。そんな彼女が自分の心を守る戦いの中で磨いた武器は「言葉」。本をよく読み世界を知り、自分の考えを文章にまとめ発言する事で、彼女は戦います。
全ての人は自分の心を守る戦いをしているのかもしれないという視点に立つ時、現実の状況の過酷さが切実さを増すほどに、意識は集中し研ぎ澄まされ、感覚は敏感に世界を捉え直します。
その時。心が静まり沈黙するのを逃さず捉える事ができたならば。八方塞がりでどこにも出口がないようにしか見えなかった世界がほどける糸口が自分に向かって投げられているかのごとく、あるひとつの微かな出来事と自分の心が出会ったまさにその瞬間に、世界に押し潰されて頑なになったその心が自然とゆるみ、状況が好転する兆しが現れた事に気がつく事ができる。
そんな、ブレイディみかこさんの、祈るような思いが伝わってくる本でした。
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